**何が利益を生み出すのか**暗号資産の世界では、価格変動に左右されない収益獲得方法が存在します。それがデルタニュートラルポジション戦略です。簡潔に説明すると、ロング側とショート側の両建てで価格変動をヘッジしながら、両面から利益を得る手法です。特に相場が活発な時期に、この戦略は安定した利回りをもたらすため、多くのプロトレーダーやファンドに支持されています。本稿では、デルタニュートラル戦略の仕組みや実装方法、そして実際の収益シミュレーションについて詳しく解説していきます。**デルタニュートラルとは|ポジション構築の基本**デルタニュートラルな状態とは、資産の価格変動から完全に遮断されたポジション構成を意味します。具体例を挙げましょう。投資家が100ドル相当のBTCショートポジションと、100ドル相当のBTCスポット現物を同時に保有している場合、価格がどう動いてもポジション全体の理論値はゼロに保たれます(手数料とスリッページを除く)。BTCが上昇した場合、ショート側で20ドルの損失が発生しますが、現物の価値が20ドル上昇するため、トータルではプラスマイナスゼロです。逆に下落しても同様です。このような構造を作るには、永久先物で売却ポジションを建てながら、ウォレットやステーキング資産で買いサイドを保有する方法が一般的です。例えば、手元に1ETHを保有し、同時にオンチェーン先物で1ETHをショートするといった具合です。**デルタニュートラル戦略が生む二つの収入源**このポジション構成の面白さは、価格が動かなくても両側から利益が生まれる点にあります。**第一の収入:ファンディングレート**永久先物市場では、市場参加者の偏りを調整するため「ファンディングレート」というメカニズムが機能しています。買い越し状態が続くと、ロング保有者がショート保有者に手数料を支払うというシステムです。例えば、多くのトレーダーがBTCをロングしている局面では、先物価格がスポット価格を上回ることがあります。このギャップを埋めるため、ファンディングレートが発動し、ロング側がショート側に定期的に資金を移動させるのです。実際のデータを見ると、年初以降のあるオンチェーン先物プラットフォームではBTCの平均ファンディングレートが約0.00118%で、年率換算すると10.32%に達しています。過去30日間でも同様の傾向が続いており、ショート保有者にとって安定した収入源となっています。ただし注意点として、ファンディングレートがマイナスに転じる期間も存在します。その際はショート側が手数料を払う立場になるため、戦略の収益性が低下します。**第二の収入:スポット側からのイールド**デルタニュートラル戦略の保有側(ロング)では、複数の方法で利回りを獲得できます。例えば、stETHを保有すればETHステーキングから約3%のAPYが得られます。さらに進んだ方法として、Pendleなどのプロトコルが発行する固定利回りトークン(PT)を活用することで、より高い利回りを確保できます。具体的には、PT-LBTC(特定のプロバイダー)は84日間で7.51%の固定APYを提供しており、これがスポット側の安定収入となります。**実践例①:BTCでデルタニュートラル戦略を実装**理論を実例に落とし込んでみます。**ショート側:オンチェーン先物でBTCを売却****ロング側:PT-LBTC(固定利回り商品)を保有**先ほど示した数字を使えば、ショート側から年率10.32%、ロング側から7.51%の収入が期待できます。ここで2倍のレバレッジを適用した場合、複合的な効果により戦略全体の年率APYは約11.89%となります。50,000ドルのポジションで84日間この戦略を継続すれば、1,376ドル(2.7%)の収益が見込めます。ただし、レバレッジを使用する以上、清算リスクが生じます。2倍レバレッジの場合、BTCが約88,000ドルまで上昇した時点で強制決済される可能性があります。レバレッジを3倍に上げれば年率13.37%へとリターンが増加しますが、清算価格が約78,000ドルまで低下するため、リスクも顕著に高まります。**市場環境が収益性を大きく左右する**興味深いことに、この戦略の収益性は市場環境に大きく依存します。年初の市場が活発だった時期、いくつかのPendle ETH関連トークンは25%を超える固定年率を提供していました。同時期のファンディングレートは年率30%以上に達していました。このような好条件下では、2倍レバレッジで約36.67%のAPYを実現できた計算になります。市場がこれほど加熱する局面は限定的ですが、その時期を捉えられれば、この戦略は非常に魅力的な選択肢となり得ます。**リスク管理の必須要素**デルタニュートラル戦略は理想的に見えますが、実装には複数の注意点があります。流動性が低いトークンのショートは特に危険です。新規プロジェクトのロック期間中トークンを保有するインサイダーや初期投資家の多くが、ポジションをヘッジするため先物をショートする傾向があります。この売却圧力が増すと、ファンディングレートが大きくマイナスに転じ、せっかくのアービトラージ利益が吹き飛ぶ可能性があります。また、個別トークンによっては価格ボラティリティが高く、ショートポジションが想定外のタイミングで清算されるリスクも存在します。例えば、高い固定利回りを提供するトークンほど、基礎となる資産の変動が激しい傾向にあります。**Vertex Protocolについて**本戦略の実装プラットフォームとしてVertex Protocolがあります。同プラットフォームはクロスマージン先物取引に対応し、複数のブロックチェーン(Arbitrum、Mantle、Sei、Blast、Base)にわたって50以上の取引ペアを提供しています。Vertex Edgeという流動性エンジンにより、複数チェーンの流動性にアクセスでき、スリッページを削減した取引が可能です。また、VRTXトークンの新しい経済モデル「VRTXバーティカルプログラム」では、ステーキング報酬の自動複利化やマーケットメーカーへのインセンティブ強化が実装されています。VRTXのステーキングAPYは通常20~30%の水準です。**戦略評価:リターンと課題のバランス**年率10~15%のAPYは、一部のステーブルコインファーム戦略と比べるとそれほど目立たないかもしれません。しかし、デルタニュートラル戦略の最大の魅力は、価格変動リスクを完全に排除しながらこのリターンを得ることです。市場が活発な局面では、30%以上のAPYが実現可能であり、その際の収益性は大幅に向上します。重要なのは、ファンディングレートとPendle関連トークンの利回りをリアルタイムで監視し、市場機会を逃さないことです。**まとめ**デルタニュートラル戦略は、イールドアービトラージの最も洗練された実装形態です。価格変動に翻弄されず、市場のギャップから利益を抽出する手法として、機関投資家やファンドが積極的に活用しています。ただし、流動性リスク、ファンディングレートの変動、清算リスクといった複数の課題があることも忘れてはいけません。戦略導入前には、これらのリスク要因を十分に理解し、ポジションサイズやレバレッジ倍率を慎重に設定することが成功の鍵となります。
デルタニュートラル戦略で安定リターンを実現する|イールドアービトラージの実践ガイド
何が利益を生み出すのか
暗号資産の世界では、価格変動に左右されない収益獲得方法が存在します。それがデルタニュートラルポジション戦略です。簡潔に説明すると、ロング側とショート側の両建てで価格変動をヘッジしながら、両面から利益を得る手法です。特に相場が活発な時期に、この戦略は安定した利回りをもたらすため、多くのプロトレーダーやファンドに支持されています。
本稿では、デルタニュートラル戦略の仕組みや実装方法、そして実際の収益シミュレーションについて詳しく解説していきます。
デルタニュートラルとは|ポジション構築の基本
デルタニュートラルな状態とは、資産の価格変動から完全に遮断されたポジション構成を意味します。
具体例を挙げましょう。投資家が100ドル相当のBTCショートポジションと、100ドル相当のBTCスポット現物を同時に保有している場合、価格がどう動いてもポジション全体の理論値はゼロに保たれます(手数料とスリッページを除く)。
BTCが上昇した場合、ショート側で20ドルの損失が発生しますが、現物の価値が20ドル上昇するため、トータルではプラスマイナスゼロです。逆に下落しても同様です。
このような構造を作るには、永久先物で売却ポジションを建てながら、ウォレットやステーキング資産で買いサイドを保有する方法が一般的です。例えば、手元に1ETHを保有し、同時にオンチェーン先物で1ETHをショートするといった具合です。
デルタニュートラル戦略が生む二つの収入源
このポジション構成の面白さは、価格が動かなくても両側から利益が生まれる点にあります。
第一の収入:ファンディングレート
永久先物市場では、市場参加者の偏りを調整するため「ファンディングレート」というメカニズムが機能しています。買い越し状態が続くと、ロング保有者がショート保有者に手数料を支払うというシステムです。
例えば、多くのトレーダーがBTCをロングしている局面では、先物価格がスポット価格を上回ることがあります。このギャップを埋めるため、ファンディングレートが発動し、ロング側がショート側に定期的に資金を移動させるのです。
実際のデータを見ると、年初以降のあるオンチェーン先物プラットフォームではBTCの平均ファンディングレートが約0.00118%で、年率換算すると10.32%に達しています。過去30日間でも同様の傾向が続いており、ショート保有者にとって安定した収入源となっています。
ただし注意点として、ファンディングレートがマイナスに転じる期間も存在します。その際はショート側が手数料を払う立場になるため、戦略の収益性が低下します。
第二の収入:スポット側からのイールド
デルタニュートラル戦略の保有側(ロング)では、複数の方法で利回りを獲得できます。
例えば、stETHを保有すればETHステーキングから約3%のAPYが得られます。さらに進んだ方法として、Pendleなどのプロトコルが発行する固定利回りトークン(PT)を活用することで、より高い利回りを確保できます。
具体的には、PT-LBTC(特定のプロバイダー)は84日間で7.51%の固定APYを提供しており、これがスポット側の安定収入となります。
実践例①:BTCでデルタニュートラル戦略を実装
理論を実例に落とし込んでみます。
ショート側:オンチェーン先物でBTCを売却
ロング側:PT-LBTC(固定利回り商品)を保有
先ほど示した数字を使えば、ショート側から年率10.32%、ロング側から7.51%の収入が期待できます。
ここで2倍のレバレッジを適用した場合、複合的な効果により戦略全体の年率APYは約11.89%となります。50,000ドルのポジションで84日間この戦略を継続すれば、1,376ドル(2.7%)の収益が見込めます。
ただし、レバレッジを使用する以上、清算リスクが生じます。2倍レバレッジの場合、BTCが約88,000ドルまで上昇した時点で強制決済される可能性があります。レバレッジを3倍に上げれば年率13.37%へとリターンが増加しますが、清算価格が約78,000ドルまで低下するため、リスクも顕著に高まります。
市場環境が収益性を大きく左右する
興味深いことに、この戦略の収益性は市場環境に大きく依存します。
年初の市場が活発だった時期、いくつかのPendle ETH関連トークンは25%を超える固定年率を提供していました。同時期のファンディングレートは年率30%以上に達していました。
このような好条件下では、2倍レバレッジで約36.67%のAPYを実現できた計算になります。市場がこれほど加熱する局面は限定的ですが、その時期を捉えられれば、この戦略は非常に魅力的な選択肢となり得ます。
リスク管理の必須要素
デルタニュートラル戦略は理想的に見えますが、実装には複数の注意点があります。
流動性が低いトークンのショートは特に危険です。新規プロジェクトのロック期間中トークンを保有するインサイダーや初期投資家の多くが、ポジションをヘッジするため先物をショートする傾向があります。この売却圧力が増すと、ファンディングレートが大きくマイナスに転じ、せっかくのアービトラージ利益が吹き飛ぶ可能性があります。
また、個別トークンによっては価格ボラティリティが高く、ショートポジションが想定外のタイミングで清算されるリスクも存在します。例えば、高い固定利回りを提供するトークンほど、基礎となる資産の変動が激しい傾向にあります。
Vertex Protocolについて
本戦略の実装プラットフォームとしてVertex Protocolがあります。同プラットフォームはクロスマージン先物取引に対応し、複数のブロックチェーン(Arbitrum、Mantle、Sei、Blast、Base)にわたって50以上の取引ペアを提供しています。
Vertex Edgeという流動性エンジンにより、複数チェーンの流動性にアクセスでき、スリッページを削減した取引が可能です。また、VRTXトークンの新しい経済モデル「VRTXバーティカルプログラム」では、ステーキング報酬の自動複利化やマーケットメーカーへのインセンティブ強化が実装されています。VRTXのステーキングAPYは通常20~30%の水準です。
戦略評価:リターンと課題のバランス
年率10~15%のAPYは、一部のステーブルコインファーム戦略と比べるとそれほど目立たないかもしれません。しかし、デルタニュートラル戦略の最大の魅力は、価格変動リスクを完全に排除しながらこのリターンを得ることです。
市場が活発な局面では、30%以上のAPYが実現可能であり、その際の収益性は大幅に向上します。重要なのは、ファンディングレートとPendle関連トークンの利回りをリアルタイムで監視し、市場機会を逃さないことです。
まとめ
デルタニュートラル戦略は、イールドアービトラージの最も洗練された実装形態です。価格変動に翻弄されず、市場のギャップから利益を抽出する手法として、機関投資家やファンドが積極的に活用しています。
ただし、流動性リスク、ファンディングレートの変動、清算リスクといった複数の課題があることも忘れてはいけません。戦略導入前には、これらのリスク要因を十分に理解し、ポジションサイズやレバレッジ倍率を慎重に設定することが成功の鍵となります。